悪玉に仕立て上げた悪玉

コレステロールの詳細は改めて記すが、まずここで触れておきたいのは、あまり知られていない、脂肪とコレステロールを悪玉に仕立て挙げ、半世紀以上も間違った情報を強いられきたいきさつを、簡単に紹介しておきたい。

脂肪を悪玉に仕立て上げ定着させたのは、一体どこのどいつであったのだろうか?

結論を先に言えば、ミネソタ大学の公衆衛生研究者のアンセル・ベンジャミン・キーズであった。

1950年代にアメリカでは心臓病による死亡率が急上昇し、その原因として、この頃の学者の間で囁かれていたのがコレステロールであったのだ。

 

1913年、ロシアの病理学者ニコライ・アニチコフが、ウサギにコレステロールを注入し、アステローム性動脈硬化症が併発したことから、コレステロールが心臓発作の原因とでっち上げた。

これは大変有名な実験であるらしく、草食動物のウサちゃんに、普段摂取することのないコレステロールを大量に投与すれば、体調を崩して死ぬことなど当たり前だとの反論が大半で、吾人から言わせれば、思慮深くない、単なる動物虐待である。

 

1937年、コロンビア大学の2人の生化学者が、「もし私たちが、卵の黄身を食べることを避けるなら、コレステロールを体内に蓄積することを防げるだろう」との見解を発表している。

 

これら基盤の薄い研究データから生まれた仮説を、この時のアメリカの医師・学者は真に受け、キーズはこの仮説を立証するための調査を1952年から行った。

 

調査と言っても、この仮説を立証するのに22カ国の中から都合の良い6か国(日本、イタリア、イギリス、オーストラリア、カナダ、アメリカ)を選び、小学校の教科書で見るようなチンケなグラフを作って、キーズはコレステロールから一歩踏み込んで、コレステロールを増やす原因は、肉や卵などの飽和脂肪酸であると、1954年に「ダイエット‐心臓の仮説(Diet-Heart Hypothesis)」を発表した。

 

そして残念なことに、これが昨今まで常識となる、「脂肪を食べると脂肪が増える」や「脂肪が増えるとコレステロールが増える」、「コレステロールが増えると体に悪い」の始まりとなってしまったのだ。

 

もちろんキーズの仮説に反対意見を持っていた学者が、多数存在していたのも事実であるが、運命のいたずらとでも言うのか、1955年にアイゼンハワー大統領が心臓発作を起こした。

大統領の主治医、心臓病専門医のポール・ドゥドリー・ホワイトは、脂肪とコレステロールの調査でハワイ、日本、ロシア、イタリアと、世界を股にかけ調査報告を発表したキーズに感銘を受け、翌日の記者会見で禁煙、ストレスを減らすことと共に「飽和脂肪酸とコレステロールを削減」することが心臓病の予防になると発表し、公にキーズを褒めたたえたのだった。

普段から権威のある者へおもねっていた努力が功を奏し、ここでキーズは脚光を浴びることとなった。

(参考文献『The Big Fat Surprise』By Nina Teicholz. Scribe Publications.2014)

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