人類の進化と赤ちゃんの成長

ティム・ノークス裁判(Tim Noakes Trial)が南アフリカ共和国で行われたことに、吾人は何か人智を超えた意味深いものを感じられてならない。

それは、人類発祥の地と言われるこの地で、栄養学に関する審問が突如降って湧いたように起こったことが、さながら人類の出現と重なってしまう。

ケトジェニック・ブームの発祥であり、裁判好きなアメリカでさえ、吾人の知る限りこのような裁判沙汰は未だ起きていない。

それが、世界的に常識となっている「食生活指針」に真っ向から挑み、人類が誕生してから文明を起こすまでに、何を食べて生き残ってきたかの食の原点と、その元初の食生活によって培われてきた生理反応、未だ完全には解明されきっていない人体を改めて見直し、理解する歴史的な句読点が全人類の故郷で打たれた。

 

HPCSAが訴訟を起こすケースというものは、性的不正行為、盗難、重篤な傷害、患者の早期死亡、またはその原因となるものとかなり重たい内容であり、たかだかソーシャルネットワークでの医師の振る舞いを、倫理的に統制する権限など基より無いのだ。

ノークス博士のように高いプロフィールで、医師としてふさわしくない行為を行った廉で起訴された例が過去に1件だけある。

ドクター・デス(死)とマスコミから称されたウォウター・バッソン博士で、アパルトヘイト時代の政府下、生物化学兵器開発に従事し、筋弛緩剤及び他の致死的薬物の配合を行なっていたとの廉で起訴され有罪となった。

以上のことから、ノークス博士のツイートが、一体どれほどの人身を死の危機に追い込んだのであろうか?この何でもないことに法的解決を求めるなど、いかに場違いなことであり滑稽極まりなく、HPCSAは何を血迷ったのかと問いただしたいものであろう。

 

そして、このHPCSAの馬鹿さ下限は、裁判初日から発揮された。(注;裁判用語に関しては全くの無知であり、日本の民事・刑事裁判用語をごちゃ混ぜに使用し、裁判・法廷用語では無い表現をするかもしれませんが、事の進行をわかりやすくすることに努めたものであることをご了承ください。)

1回目の公判は2015年6月4-5日で、まず公判のために選ばれたパネルメンバーが、法廷の設けた条件を満たしていなかった。

例えば、最低でも2人のパネルメンバーは、医療と歯科専門理事会に登録していなければいけないことと、その内の1人は、ノークス博士と同じ専攻で一般開業医の資格があること。

理事会に登録していず、ノークス博士とは違う専攻である人を1人パネルメンバーに組むこと。

これをHPCSA側は遵守することができず、被告側弁護士にやり込まれて最初の公判は原告側のつまずきで終わった。

 

2回目の公判は2015年11月23日-12月2日、原告側の証人による口頭弁論であるが、最初の証人はカナダ在住の教授で、この日の公判には様々な理由で出席できないため、スカイプかなんかのビデオで弁論するとのことで、これまた、被告側弁護士に効率的でないなどボコボコに攻撃され、最初の証人はボツとなった。

この次に続く3人の証人は、南アフリカ共和国トップ3の大学から、それぞれ教授・博士が選抜されてきたが、A1評価のノークス博士に比して、ヴォ―スター教授はA2、クルーガー教授はC2、ダンセイ博士は評価無しで、“学術的足跡”なる評価に関しては、ノークス博士の71点に対し、ヴォ―スター22、クルーガー17、ダンセイ0と法廷の指定した対等の弁論どころではなかった。

しかも、この公判のポイントとなる栄養学、小児科、ソーシャルネットワークを巡って、是非を論ずるのであるが、ヴォ―スター教授はそのいずれの専門ではなく、クルーガー教授に至ってはノークス博士のファンのようで、しょっぱなから自分で宣言して敵愾心無く、ダンセイ博士は小児科専門であるが、最後の研究は1940年代ともう化石化していて、結局は猫がネズミをなぶり殺すような態であった。

 

3回目の公判は2016年2月8-17日で、ここではノークス博士自ら弁論をした。

原告側が、エビデンスに基づいていないアドバイスだの、LCHFは安全だとのエビデンスが無いだのとやかましいので、たっぷりとエビデンスを用意。

1163のスライドと354もの引用、その中には47のRCT、介入試験・室内実験28、メタアナリシス11、観察調査77、評論記事78、論説24、書籍15、新聞記事・メディアレポート・ブログ48、声明書14、手紙8、 ビデオ・博士号論文3が含まれており、6000ページもの弁論レポートであったが、40時間の口頭では全てを語ることはできなかった。

それは弁論と言うよりも、どこの大学でも受けることはできないであろう、一流の科学者の講義のようなもので、全てが古今東西の資料に基づいて意見を述べている。

この講義には、日本で出版されている全ての糖質制限本の知識を含有していると言っても過言では無いだろう。(実際筆者は全ての糖質制限本を読んだわけではありませんが、ノークス博士の講義(弁論)を視聴すれば、そう思ってしまうようなインパクトがあります)

基より、LCHFに対していちゃもんを付け、譲ることのできない法の下での討論であるため、決して誤魔化しの無い、純粋で真摯な科学的アプローチで、偏見に対しては鋭く切り込むようにエビデンスを提示し、ノークス博士自身が感情的ではなく、偏見もなく、真の科学者として語り通していた。

そしてこの講義は、今後更に増えるであろう、認識をせずに批判する無知な反対論者に対するディベートの教材とも言えよう。

 

弁論のはじまりは、なぜLCHFを始めたかを個人的経験を基に、従来の2型糖尿病に対する認識と取り組みがいかに間違いであるかを訴えた。

ノークス博士の父親が2型糖尿病と診断されたのが、博士が医学博士号を修得した年で、丁度この時のノークス博士と同じ齢、66歳であったと言う。

糖尿病疾患から6年後には片足を切断し、8年後には両足と心も失った。

父親の死因は動脈疾患で、その原因が脂肪肝にあり、まさか父親が脂肪肝であったとは誰も知らず、知っていればそれなりの治療が為され、別な結果に導いていたかもしれないと、無念さが感じられた。

この時に受けた糖尿病対策の小冊子を紹介し、「炭水化物(糖質)だけが、脳への唯一のエネルギー源」であるとの箇所に対して「全く、完璧な嘘である」と否定し、「いくら糖尿病でも糖質は摂取しなければならず、GI値の少ない糖質で症状をコントロールすること(筆者意訳)」に対しても、対症療法であって原因療法では無いと強く指摘。

そもそも、この小冊子を出版した糖尿病協会は、過去にノークス博士自身が携わり創設した組織で、資金調達は砂糖産業が主にしていることを暴露したが、この砂糖産業に関してはその後も紹介されるが、陰謀論的なものを暴露して攻め立てるのではなく、砂糖産業がいかに「食生活指針」に影響を与えてきたかを、冷静に紹介されている。

 

糖尿病→動脈疾患は脂肪肝がその中継点に存在し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はインスリン抵抗性が原因であることを突きとめ、博士の『Lore of Nutrition』では一貫してインスリン抵抗性が、高血圧からはじまる諸々の生活習慣病の素であることが、嫌でも組み止められる。

インスリン抵抗性の特徴として、そのほとんどが肥満で、通常の糖質量(ここではグルコース量)を摂取しても、膵臓が過剰なインスリンを分泌してしまい、実際には血中ではグルコース(ブドウ糖)よりもインスリンの方が多くなってしまう状態だ。

このような状態が長年続いて糖尿病となるのだが、それからいくらGI値の低い食事をしてもインスリンは減るものではなく、ましてや肥満を改善するともなれば更に難しいものである。

そこで素直に理屈に従えば、糖質を摂取しないことがインスリン分泌を減らし、インスリンが減れば、今度はケトン体が生産され、ケトン体はインスリン感受性作用があるので、これこそヒポクラテスの言う自己治癒力で原因療法に繋がるではないか。

グルコース代謝が人間の基本代謝と、当たり前のようにまかり通っているが、人間の基本代謝はグルコースではなく、脂肪代謝であると博士はきっぱりと断言している。

糖質を摂るから代謝するだけであって、糖質を摂らなければ人の体は自然と脂肪代謝へと戻る

また、グルコースがなぜ優先されるように代謝されるのか?

それは過剰なグルコースは毒となるので、いち早く処理をしようと代謝し体脂肪に変換して蓄える生理反応で、丁度アルコールと似た反応を体は起こす。

その証拠に必須糖質という栄養素は存在せず、糖質不足で疾患する病気も無ければ、糖質を摂らないから死に至ることも無い。

健康な人の血中グルコース量はスプーン小匙1杯(5g)だけで、グリコーゲンの糖新生から得られるグルコース量は200gと、糖質無しでも充分すぎるほどのグルコースを体は生産することができるのだ。

 

ケトン体の安全性をはっきりさせるために、博士はその日の朝に測定したケトン値を紹介し、栄養ケトーシスとケトアシドーシスの違いを述べ、我々の体はホメオスタシス作用で危険の無いようにコントロールされていて、「何百万年もの進化の過程で、飢餓時にケトンの応答が無ければ赤ん坊は死に、我々も死んでいただろう。これは、人間を生き残らすためのノーマルな生物学的反応なのである」。

人類の誕生と、一個人の誕生時に共通しているのは、いずれも脂肪代謝であることだ。

例えばゴリラとチンパンジー、人間の食と生理学的違いは、

・ゴリラ:草食で腸が長く栄養を抽出させるために、1日中嚙み砕いて発酵させる。発酵した繊維は飽和脂肪酸となる。

・チンパンジー:草食だが果物が主で、たまに肉も食べる。ゴリラと同様の理由で半日食べ続ける必要がある。

・人間:肉食。腸が短く、アニマルベースの食事から直接的に飽和脂肪酸を得ることができる。食事の20%以上を肉・魚が占めれば肉食の範囲になる。

200万年以前のヒト亜科ヒト族の食生活として、猛獣が食べ残した残骸か、陸・水・空と自ら狩猟で仕留めたもので、ヒトが肉を食べていたという証拠として、動物の骨に鋭い切り傷があるか、骨が砕けずにきれいに切断されているものは、ヒトが道具を使った跡であるとのこと。

また、内陸よりも天然の食糧庫ともいえる海岸にヒト族は住み、海の幸を満喫しながら生き残ったことを見逃してはならない。

海産物には、オメガ3オイル、ビタミンD・B12やヨウ素やセレニウムなどのミネラルも豊富で、文句なしの栄養素がそろっていることから、海産物の摂取が進化の鍵であったと、先に述べておく。

アウストラロピテクスは主に草食で時々肉を食べていたようであるが、その後の進化の過程で人類は雑食ながらも肉食または海産物主体で、栄養価の高い脂肪を大量に摂取できたことによって、または、ケトン体に溢れていたことによって、脳が急速に発達したと考えられている。

Early hominin diet included diverse terrestrial and aquatic animals 1.95 Ma in East Turkana, Kenya

http://www.pnas.org/content/early/2010/05/20/1002181107

ここで、ベジタリアンが「ヒトは雑食であり肉食ではない。また、他の肉食動物はヒトのように進化をしていない」などと反論するのだが、一見してわかる通り、ヒトとライオンや虎は体の構成が違うし、なによりも脳の大きさが違う。

ヒトと他の動物の違いなど、生物学の基礎ではないか。

 

人が生まれる時、妙な現象を経る。

それは、地球で人類が進化してきたであろう過程を胎児は辿っていくのだ。

受精した時は、地球に微生物などの生命が誕生したことを象徴し、その後細胞分裂をして魚のような姿になり、その後は恐竜のような姿になって、徐々に人間の形になる。

この時の胎児はケトンで生きている!

生まれた時もケトン!!

そして、母乳はケトジェニック!!!母乳は新生児のケトーシスを増加させるのだ。

(母乳は、他のほとんどの食物よりも多い割合のコレステロールを含む。またカロリーの50%以上は脂肪であり、そのほとんどは飽和脂肪酸である。コレステロールと飽和脂肪酸はともに赤ちゃんや子供の成長に必要であり、特に脳の成長に必要である。『母乳』ウィキペディアより引用)

そして興味深いことに、陸上哺乳類の中で人間だけがブクブクの脂肪太りで生まれてくることに加え、他の動物と違って、独り歩きするまで3年4年とやたらと手間が掛かる。

その理由は脳の発達にある。

人は生まれてから2歳まで、まるでロケット発射のように急激に脳が発達する。

これは丁度、人類の進化でホモエレクトスからホモサピエンスの間に、急激に脳が大きくなったことと瓜二つの現象だ。

脳の発達に必須なものは脂肪だ。糖質が必須になる余地はどこにも無い。

説得力のある仮説ではあるが、赤ちゃんの体脂肪の多さは、脳へのエネルギーと栄養に使用され発達させる為で、これにはケトン体が大いに関わり、600万年の進化で培われてきた、「人間を生き残らすためのノーマルな生物学的反応」で、糖質がこれに取って代わるようなことはできない。

また過剰なグルコースは赤ちゃんを傷つけるものだ。

離乳食時に脂肪を必須とすることは、脳の発達だけではなく、ビタミンD、E、A、Kの吸収に必要であり、重要なミネラルである鉄、亜鉛を毎日摂取するとなれば、肉、魚、卵、乳製品でなければ補いきれず、もちろん必須アミノ酸は筋肉と骨の発達にも欠かせないものだ。

このことからベジタリアンのプラントベースの食事は、充分な栄養を補給できないことから、離乳食には向いていないことは、世界保健機関やイギリス、カナダ、南アフリカの離乳食ガイドラインで一致した意見であり、翻ってノークス博士の推進するLCHFの食事を吟味するに、高脂肪+適度なタンパク質(幼児の蛋白過剰摂取は肥満に繋がるデータがある)+繊維豊富な野菜+糖質制限の離乳食は危険であるどころか、逆に理想的な離乳食であって、ガイドラインになんら反することが無いことは明らかである。

 

以上のことから、この稿の結論は、

・人間の基本的な代謝は、脂肪=ケトン代謝。

・人間はビタミンやミネラルの効率的な補給、生物学的構造から見て、肉食。

・人類の進化と赤ちゃんの誕生から見て、ケトン代謝は自然の成り行きであり、脳の発達に大いに寄与している。

 

(注)この稿はノークス博士の著書『Lore of Nutrition』とYouTube 「Tim Noakes Trial 」 を参考にしており、実際の弁論を記録した動画は84回と長いものですが、興味のある方は是非とも視聴して頂くことをお勧めします。

https://www.youtube.com/watch?v=9OT_S6fDxR0&list=PLPda1Yn6bpO6DG_b5_wAVXf100niaaJDX

 

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