脳血管疾患とコレステロール

『「日本人が長寿になったのは肉を食べたから?」─日本が世界の長寿国になった本当の理由』との記事を今年の初めにヤフーニュースで見つけ、フェイスブックでシェアをしましたが、現在ではヤフーニュースでは削除され、有料記事として某ニュースサイトにて掲載されています。[1](会員登録をして記事を閲覧しようとしましたが、エラーが発生して登録できないので、かすめる程度に紹介しておきます)

内容は、戦後の日本は脳血管疾患が死因の第一位であったものが、経済成長に連れて赤肉の消費量が増え、脳血管疾患による死亡率が減ったとの疫学研究的関係性に着目し、コレステロール値の高さと長寿の関係性を述べていたような…いなかったような…?


ギャリー・トウブス著『Good Calories, Bad Calories』では、1980年代、日本を訪問したミネソタ大学の疫学研究家が、日本の医師は出血性脳卒中予防のために、患者さんにコレステロール値を上げるよう指導していたことと、MRFIT研究のデータでコレステロール値160mg/dl以下では脳卒中、早死が多く観られたことを照らし合わせた例を紹介しています。

続いて、フレミンガム研究では、50歳以前では「高コレステロール値と早死の関係性」または低コレステロール値と心臓病予防が観察されていますが、逆に50歳以降の男女コレステロール値が低ければ、死亡率がより高くなったとのデータが発表されています。

1990年の国立心肺血液研究所の結論では、コレステロール値上限;240mg/dl以上心臓病リスクが高く早死しやすいのに対し、下限;160mg/dl以下ガン、呼吸器及び消化器疾患のリスクが増し、特に女性では、コレステロール値が高ければ長寿であることが報告されています。[2]


次にニーナ・タイショール著『The Big Fat Surprise』では、コレステロール値が180 mg/dl以下の日本人は、コレステロール値が高い人の2〜3倍の割合で脳卒中を患っていることを、NIHの研究者が発見したことを紹介。[3]

またNi-Hon-San 研究からも低コレステロールと脳血管疾患の関連性を紹介。

Ni-Hon-SanとはNippon- Honolulu- San Franciscoの3地域在住の日本人を被験対象に、心血管疾患に関する観察調査を1965~1970年代まで行われた日米共同研究であります。

『ケトン人3』では、ホノルル心臓研究を紹介していますが、左の研究はNi-Hon-San 研究に含まれる3つのコホート研究の一つで、他には寿命調査、成人健康調査があります。[4]

前著で記載したことと重なるので詳細は省きますが、この研究によれば、日本在住の低コレステロール値の方が致命的な脳出血の発生率が高いことが確認されています。

また別な言い方では、肉、乳製品、卵が少ない食事をしている人の方が、脳卒中の発生率が高いとも言えます。


以上、全てが疫学研究のデータでありますが、コレステロールの役割を生化学的に考察すれば、コレステロールの高さと健康、長寿の関係が納得できるものと思われます。

これまでブログ、書籍で訴えているように、コレステロールは細胞膜やステロイドホルモンの原料であり、神経などの諸器官の保護や修復、免疫、骨の健康などに欠かせない要素であります。[5]

そして脳血管疾患とコレステロールの関係性を、日本脂質栄養学界の初代会長である奥山治美名誉教授の言を借りれば、脳は体内で最も多くのコレステロールを有しているので、コレステロール摂取を抑えると、脳血管への障害が起こりやすくなるのではないかとのことです。[6]

動物性脂肪・コレステロールには血管を保護する働きがあることから、コレステロール値の高い人ほど血管が強く保たれ、健康でいると言うのは、研究無しでも充分に納得のいく理論であると思うのです。

最後に奥山先生の含蓄ある言葉。

『「…バターやラードなどの動物性脂肪をとりなさい」というのが、これまで油ひとすじに五十余年も研究を重ねてきた私からのアドバイスです。』(「コレステロールは高いほうが心臓病、脳卒中、がんになりにくい」奥山治美著より引用)


[1] https://courrier.jp/news/archives/233830/

[2] 「Good Calories Bad Calories」by Gary Taubes, Anchor, 2007.

[3] 「The Big Fat Surprise」by Nina Teicholz, Scribe Publications, 2014.

[4] 「[インタビュー]日米共同移民観察研究から日本人の心血管の明日を考える。
−心血管疾患に生活習慣が大きく影響することを示したNI-HON-SAN Study」 http://www.epi-c.jp/entry/e103_0_interview_01.html

[5] 「New Insights into Cholesterol Functions: A Friend or an Enemy?」2019  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6682969/#:~:text=Its%20main%20function%20is%20to,bile%20acids%2C%20and%20vitamin%20D. 

[6] 「コレステロールは高いほうが心臓病、脳卒中、がんになりにくい」奥山治美著、主婦の友社、2012年

Pocket
LINEで送る
このエントリーをはてなブックマークに追加
このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 脳血管疾患とコレステロール