IF=Intermittent Fasting(一時的断食)

ほとんどのケトン人は、ケトジェニック・ダイエットと一時的断食=IFをセットとしているのが現状である。

拙著『ケトン人』でも紹介したが、断食には16:8、18:6、20:4,23:1、24時間とあり、1日1∼2食が基本である。

16:8と言うのは、夕食後、睡眠時間も含めて16時間の断食を行い、朝食または昼食後8時間の断食をしてから夕食となる。

『「いつものパン」があなたを殺す』の著者デイビッド・パールマター医師は1日1食と言うから、24時間のIFだ。

吾人は18:6を毎日行っているが、厳密に言うと完全な断食とは言い難い。

なぜなら、朝にはMCTオイルとバターの入ったコーヒーを1杯飲み、昼食後数時間でバターの入ったココアかブラジルナッツを食べる。

微量な脂肪摂取でもカロリー摂取となるので、カロリーを注入する限り厳密には断食とは言えないようだ。

 

しかしながら、ケトン状態は断食と同じ反応を体に起こす。

体はケトン食と断食の違いなど認識せず、ただブドウ糖が無くなったことに反応して、ケトン体を生産しだすのだ。

1967年のジョージ・ケイヒル博士のケトン代謝の調査では、被験者を40日間断食させて調査を行った。

この時に観察された代謝の転換過程を見ると。

1.断食を始めて6∼24時間:血糖値とインスリン値が下がり、肝臓のグリコーゲンがブドウ糖を解放。肝臓のグリコーゲンの貯蔵時間は24∼36時間。

2.24時間から2日目:肝臓グリコーゲンが空になり、筋肉からブドウ糖を生産=糖新生が行われる。

3.2日から3日目:ケトン代謝の始まり。

低インスリンが脂肪分解を刺激し、中性脂肪を燃料として使用しだす。アミノ酸からのブドウ糖変換(糖新生)が止まり、筋肉合成へと方向転換される。

4.4日目:この時点で、脳はおよそ75%のエネルギーをケトン体から得る。

5.5日目:蛋白質維持段階。

大量の成長ホルモンが分泌され、筋肉や器官組織の維持、修復等が行われる。

この時点で、全体のエネルギーは脂肪酸とケトン体。

血糖値は一定に保たれ、代謝率の低下を防ぐためアドレナリンが増加。

蛋白質も通常の量に維持される。

 

このように、すでに1967年に、食の絶えた体が自然な反応として、ケトン体代謝へと転換される記録「飢餓時における代謝燃料」が明示されていた。

そして、生き残り反応・作用としてのケトン転換と、断食中ケトン値が跳ね上がることは、ごく自然な生理作用であることも、50年前に明白にされていた。

とどのつまり、ケトン人になるのにケトン食を2∼3週間続けるよりも、3日間の断食をすることでケトン転換が完了してしまうのだ。

このことからIF とケトン食の組み合わせは、確実なケトン体質を確保し、ケトン値を高め、倍増するのだ。

 

しかしながら、断食に縁遠い人なら、一時的ではあっても断食というものは、栄養不足を招き、血行も悪くなり、諸器官に充分な栄養が届かず障害や問題を招き悪化させるのではないかと、思われるであろう。

かく言う吾人もそうであった。

しかし、上のケイヒル博士の記録から垣間見れるように、我々の体は意識せずとも、緊急事態を敏感にキャッチして即対応する優秀さを備えているものだ。

血糖値を保ったり、体脂肪を燃料にしたり、筋肉量を維持したり、通常よりも若返りホルモンを分泌したりと、意識せずとも例外無しに万人の体は生き残るために完璧な働きをしている。

 

そこで、次に断食に伴う体内の機能変化をいくつか紹介しよう。

(1)まずインスリンが下がることによって血糖値も下がり、血糖値はそのままドンドン下がるのではなく一定に保たれ、自然と低血糖症を防ぐ機能が働く。

面白いのが、インスリンは余計な水分と塩分を腎臓に保存する働きがあり、以前は夜中に何回もション便で起きていたものだが、ケトン人になってからはこの夜中のション便が無くなったのだ。

ケトン代謝になることでインスリン分泌が減り(またはインスリン分泌がほとんど無くなる)、腎臓での水分と塩分保存が無くなり、これと並行して血圧も下がり、正常に保たれ出す。

また糖分は水分を引き寄せる働きあるらしく、ブドウ糖=水で、糖質の摂取が絶え、筋肉に蓄えられている糖分が無くなれば水分も保存されなくなり、余分な水分が処理される。

これがために、ケトジェニック・ダイエットや糖質制限ダイエットを始めて、2∼3週間で6∼10キロの減量が簡単なのは、これら水分が抜けるからなのだ。

またインスリンが大人しくなることで得られる他の特典は、インスリン感受性が高くなり、インスリン抵抗性=2型糖尿病を改善することと、体脂肪の蓄積が無くなり、体が脂肪燃焼マシーンとなることだ。

 

(2)糖質摂取が極端に減ることによって、体は敏感に反応して、全てを正常に保とうとホメオスタシスをあちこちで作動させる。

血糖値然り、血圧、グリコーゲン、筋肉量、そして電解質=ミネラルもある程度の値を維持する。

もちろん、エネルギー供給がされなければ、日に日に維持費は減っていくもので、40日前後には命に及ぶ危険域に達してしまうが、それまでに、体を正常値に保ち健康状態を維持しようとする働きは、最先端の技術を備えた機械でも足元にも及ばぬ完璧さであり、ただただ感嘆してしまう限りである。

 

(3)グリコーゲン貯蔵エネルギーを使用するため、また脂肪燃焼のためにアドレナリンが大量に分泌される。

これによって断食4日後に、基礎代謝が12%上がる。

アドレナリンが体に及ぼす作用として、俗に言う「火事場の馬鹿力」で、血管が拡張し血流も増え、筋肉力がアップするのだ。

つまり血行が良くなるわけで、同時に鎮痛作用も担っている。

このことから、断食中は疲労困憊の極みと思われるのは単なる誤解であり、現実は逆に頭脳明晰で活力に溢れる。

アンジェリーナ・ジョリー監督の映画「不屈の男」の原作本の中には、飢餓状態に陥った捕虜兵たちが驚異的な頭脳の明晰さを覚え、1週間でノルウェイ語を習得したり、記憶から本を読み返したりする兵士が出たりしたと、それこそ映画のような逸話があるようだが、これらはあながち作り話だとは言い難い。

この映画は反日との批判の声も上がったようであるが、反日と狭小な枠で批評するのではなく、反戦との大きな視野で捉えるのが大和魂ではないのか。

敵も味方も苦しみ、悲惨な目に合うのが戦争だ。

と余計なことは置いといて、ケトン人となれば「俺ってこんなに、頭の回転が速かったっけ・・!!?」と疑うほど、頭の中がなんのぼやけもなく明晰になるのだ。

例えば、車の運転でも何の迷いもなく的確な判断が常にでき、記憶力も増して仕事でも言われたことを忘れずに、合理的に処理するようになる。

 

(5)成長ホルモンの上昇。

文字通り、思春期には大量に分泌され成長を助けるホルモンで、これが俗に言う若返りホルモンである。

細胞の成長と回復を促す働きがあり、断食以外では運動後と夜10時∼2時の間に分泌されると言われている。

骨を強くし、筋肉を増やし、肌の代謝が活発になるので皺やシミを防ぎ、脂肪を燃焼する。

疲労回復にも大いに影響している。

 

(6)若返りの次には長寿。

いわゆるサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)が活性化する。

普段この遺伝子は眠っていて、目覚めさす唯一の方法は「空腹」になること。

飢餓状態=ブドウ糖が無くインスリンの分泌されない状態に、ケトン体が生成されるのと同様に、サーチュイン遺伝子も眠りから覚めるのだ。

つまりこれらは生命維持の機能なのである。

目覚めたサーチュイン遺伝子はサーチュイン酵素を増やし、この酵素は活性酸素を除去して炎症を防ぐ抗炎症・抗酸化作用があり細胞の修復も行う。

 

(7)サーチュイン遺伝子が活性化すると、BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)=脳由来神経栄養因子が増える。

BDNFは脳細胞の数を増やし、新しい神経を作り、発達・成長・増殖させ、神経と神経をつなげ、ダメージから保護する働きがある。

 

(8)細胞が増えることによって、ミトコンドリアも増える(またはミトコンドリアが増えるから、細胞が増えるとも言えるかもしれない)。

ミトコンドリアはエネルギーを生産する源で、ミトコンドリア無しでは我々は生きてはいけない。

 

(9)細胞をリサイクルするオートファジーが行われる。

オートファジーと言えば、東京工業大学の大隈良典栄誉教授が、その仕組みを解明して2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞されたので、すでにご存知の方も多いであろう。

傷付いた細胞を修復し、細胞の死骸を処理する整理整頓機能だ。

 

(10)細胞死が減る。

細胞の死にはアポトーシス=機能的細胞死とネクローシス=細胞壊死があり、アポトーシスはプログラムされた死で、縮小して分解しリサイクルされるもので、能動的な細胞死。

実はミトコンドリアがスイッチを握っている。

これに対しネクローシスは、栄養不足、毒物、外傷によって破裂し、炎症を起こす受動的な細胞死。

 

これらが断食→ケトン人の時に起こるごく自然な生理反応である。

このように断食は、遺伝子や細胞レベルからの活性化を起こすことに気付かれたことであろう。

しかも、3日、5日、1週間などと長々と断食をする必要はなく、ケトジェニック・ダイエットだけで、これまで紹介してきた蘇生変化が起こるのだ。

繰り返すが、世界のケトン・コミュニティーでは1日3食のケトン食ではなく、1∼2食とIF=一時的断食の組み合わせが常識化している。

3食も取っていてはケトン値も低いし、思いがけずにある拍子で糖代謝にバウンドしやすくなってしまう。

 

最後に、世界最長の断食は382日間。

1973年にスコットランド大学で行われた実験で、被験者は27歳の男性。

毎日水とビタミン剤を与え、最初の10カ月はビタミンCと酵母を加え、断食開始から93日目から162日間にはカリウム、345日目から355日間にはナトリウムを摂取させた。

そうして、207キロから82キロと125キロの減量を果たした。

実験後の被験者は健康そのもので、生理的よりは精神的にギブアップをした印象が強い。

また伝え聞く話によれば、125キロもの減量後、皺しわの皮膚のたるみは無く、ただそのまま縮小したような体であったとのことだ。

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