迫害

南アフリカ共和国では、ケトジェニック・ダイエットをバンティング・ダイエットと呼ぶ。

スウェーデンやシンガポールなどのいくつかの国や、医師や推進者によってLCHF(Low Carb High Fat)ダイエットと呼ぶが、ケトジェニック・ダイエットのことである。

一般にロカボダイエット(ローカーボ)と言われるのは、即ケトジェニック・ダイエットとはならない。

なぜならタンパク質の摂取量が高すぎ、糖新生を起こしてケトン体生産に至らないからだ。

これに共通して、日本の糖質制限も肉食べ放題を表看板に立てているものは、ロカボであってケトジェニックではない。

1日の肉や魚の摂取量は、その人の体重や運動量に拠りけりだが、平均的に100グラム前後と少ないものだ。

 

ノークス博士が命名したバンティング・ダイエットは、19世紀イギリスの皇室ご用達の葬儀屋ウィリアム・バンティングから由来したもので、肥満で健康を害していたバンティングが、フランス帰りの医師から勧められて、ロカボダイエットをしたところ、おもしろいように痩せて健康を改善向上した感動から、小冊子を執筆した。

『Letter on Corpulence, Addressed to the Public(一般に宛てた、肥満に関する手紙:筆者訳)』と題する小冊子は当初ランセットへ提出されたが、医者でもない素人など相手にしないとの、ランセット側の紳士的な反応から、バンティングは自費出版することにした。

これが思った以上に売れ、イギリスだけではなくヨーロッパでベストセラーとなり、これを受けてドイツの心臓病医師ウィルヘルム・エブステインが2冊のロカボダイエットの本を出版し、その10年後には大西洋を渡って、ウィリアム・オスラーによって肥満に対する医療テキストが執筆された。

ノークス博士は、このバンティングの記したダイエットが、人類史上初のダイエット本でありロカボダイエットの元祖でもあることから、原点としてバンティング・ダイエットと命名したようだ。

『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』はオンラインで閲覧可能であり、10ページちょっとの小冊子であるが、吾人は未だに読んではいない。

それゆえ、19世紀の原型バンティング・ダイエットがケトジェニックであるとは断言し難いが、ノークス博士が推進している高脂肪・適切なタンパク質・糖質制限はケトン体誘発のダイエットであることは確かである。

 

2011年から潮が満ちるように、バンティング・ダイエットが普及するにつれ、ノークス博士の恩師や同僚、また40年勤務したケープタウン大学や他大学の学者連中からも、非難轟轟の論文がマスコミ等で報じられ、医療諸機関も目を吊り上げて誹謗中傷、以前のA1評価のトップ科学者に対する態度が一変して、ここぞとばかりにコケ落とそうと躍起になった。

そこでノークス博士も負けじと、2013年に『The Real Meal Revolution』を出版し、科学的・学術的・理論的に完膚なきまでの反論をするが、これがかえって火に油を注ぐことになり、前代未聞の事態へと悪化していった。

 

2014年2月3日、博士と『The Real Meal Revolution』の共同著作者のサリーアン・クリード宛てに以下のツイッターが届いた。

@ProfTimNoakes @SalCreed is LCHF eating ok for breastfeeding mums? Worried about all the dairy + cauliflower = wind for babies??(Noakes, Tim. Lore of Nutrition: Challenging conventional dietary beliefs (Kindle Locations 4618-4619). Penguin Random House South Africa. Kindle Edition.より引用)

ピッパ・リーンストラという女性で、質問の内容は「母乳育児中の母親たちが、授乳期にLCHFの食事をして大丈夫か?乳製品とカリフラワーなどを食べれば、赤ちゃんたちのゲップがひどくなるのではないか」との質問であった。

これを受けて博士は、質問の表現が「母親たち・赤ちゃんたち」と複数形であることから、「医師と患者の関係」にはならず、答えは医療アドバイスなるわけではなく、一般的情報の範疇になるので、医療法には触れないことを充分認識してから、2日後にツイートをした。

@PippaLeenstra @SalCreed Baby doesn’t eat the dairy and cauliflower. Just very healthy high fat breast milk. Key is to ween [sic] baby onto LCHF.(Noakes, Tim. Lore of Nutrition: Challenging conventional dietary beliefs (Kindle Locations 4634-4636). Penguin Random House South Africa. Kindle Edition.より引用)

「赤ちゃんは乳製品やカリフラワーを食べずに、とても健康な高脂肪の母乳だけを飲む。鍵はLCHFへと離乳すること。」と、ツイッター上での一般的な情報を提供し、個人的内容になることを避けた。

そしてこれを受けてピッパ女史は

@ProfTimNoakes @SalCreed ok, but what I eat comes through into my milk, is that not problematic for baby and their winds at newborn stage?(Noakes, Tim. Lore of Nutrition: Challenging conventional dietary beliefs (Kindle Locations 4651-4653). Penguin Random House South Africa. Kindle Edition.より引用)

「オーケー、でも私が食べるものは母乳に行き着くから、新生児の赤ちゃんにとってゲップの問題にならないでしょうか?」との懸念を表した。

これを受けて博士は、2つの理由から返信を拒んだ。

①表現が1人称となったことから、個人的趣きへと流れが変わり、返信をすれば医療アドバイスとなってしまう。

②ピッパ女史の質問は博士にとっては専門外であり、科学的情報は提供できるが、この状況に沿った医療情報は提供できない。

と良識ある判断をし、誰か専門家が変わって答えてくれないかと期待をしていたところ、数分後にマーレン・エルマーと名乗る栄養士がツイートをしてきた。

が、内容は「授乳期の母親がLCHFをするのは断固反対であり、LCHFはオーケーではない。」との毒のこもった横槍で、ピッパ女史がその理由を尋ねても、その質問には答えず、代わりに自身のEメールを送りここに連絡をしてくれとの盗賊的行動を曝け出してきた。

 

この横取りツイッターの翌日には、ADSA(南アフリカ栄養士協会)のクレア―・ストライドムが大袈裟なヒステリック的なツイートでスレッドに参加し、「そんなアドバイスを、どうしてあげられたものか」といちゃもんを付け、「行き過ぎだ。ヘルス・プロフェッショナル評議会(HPCSA)に通報する」と一方的に喚き、ピッパ女史には電話番号とメールアドレスを残し、なぜLCHF食は授乳期に良くないのかを説明しようともせず、ノークス博士を血祭りにしようという様に他の栄養士も加わって、ツイート上にて「危険なアドバイス」を繰り返した。

そして、実際にストライドム女史はHPCSAに通報し、HPCSAは9月にノークス博士を起 訴することに決定、この決議をノークス博士に通知したのは翌年の1月であった。

そもそも、HPCSAは、医師や医療に携わる人々、栄養士などを保護・養成すると共に、患者側にも問題の無いように、規制を設け管理運営する組織であるが、このケースは、通報されたノークス博士に事の次第を全く伺うことなく、一方的に、しかも黙って裏工作的に事を進め、起訴するとの重大な決議も3カ月後に本人に知らせる理不尽極まりない態度で、いわゆる組織vs個人のいじめの醜態以外の何物でもない。

HPCSAが起訴した内容は、まず「専門的でないあるまじき行為」をしたことを挙げ、「母乳育児への常軌を逸したアドバイスをソーシャルネットワークで行った」とのことであった。

「はあ∼っ??」と、バカにして聞き返したい内容であるが、このくだらないこじつけが、ツイッターを受けてから3年間、裁判訴訟となってズルズル引き摺ることとなった。

 

この裁判沙汰までの過程を勉強していた当初、この質問をしてきたピッパ夫人は、栄養士たちとグルだったのではないかと疑ったが、2015年11月28日のアフリカのニュースサイト「Netwerk24」にてインタビューを受け、あのツイートの日に、ピッパ夫人の旦那さんが『The Real Meal Revolution』を買ってきたので、興味半分からノークス博士にツイートをしたようだ。

当時夫人には母乳育児中の生後6カ月の息子さんがいたが、バンティング・ダイエットをしようという気はもとから無く、HPCSAの言い掛かりは全く「サーカスのよう」と笑っていたようだ。

このことからツイッター上で、「医師と患者の関係」は成り立っていないことは明らかであり、なによりも、スレッドを見ただけでも、医師と患者でもなければ、医療アドバイスになっていないことは誰の目にも明らかであるが、HPCSAはうんともすんとも言わずに、強引にも「医師と患者の関係」と判断し前提にして、ノークス博士のアドバイスは適切でないと攻め立てた。

逆を言えば、「医師と患者の関係」が成り立っていなければ、HPCSAは裁判へと持ち込む権利が無いのだ。

そして仮にもこのツイッターが「医師と患者の関係」であったと譲るなら、HPCSAの規則では、他の医師の患者を横取りすることは、規則違反で罰せられるべき対象であることから、スレッドで明白な通り、横槍を入れてきたマーレン・エルマーとクレア―・ストライドムも訴えられて然るべきであるが、これほど鮮明な罪がものの見事に無視されて尽くしていた。

しかも、HPCSAが強調する「母乳育児への常軌を逸したアドバイス」とは、「危険なケトジェニック・ダイエットを勧めた」ことと、「母乳育児を止めろと言った」ことにあると、ぬけぬけと見え透いた嘘をでっち上げていた。

つまり、HPCSAはLCHFの拡大をなんとか食い止めようと、ノークス博士に的を絞り、虎視眈々とその機会を狙っていたとも言える、なりふり構わぬ常軌を逸した行動に出たのであった。

 

日本では知れ渡っていることであろうが、生まれたての赤ちゃんはほとんどがケトン人である。

西欧では、2005年に『出生時の代謝適応』との報告がイギリスから提出され、新生児は脂質を基本とした代謝だと述べている。(「Metabolic adaptation at birth」Ward PlattM, Deshpande S. Semin Fetal Neonatal Med. 2005 Aug. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15916931

赤ちゃんは出生後数日は自らケトン体を生産し、ケトン体をエネルギーとする。

このケトン体代謝が人生の始まりなのである。

このことから授乳期に、母親がケトン食を食べても危険ではなく、かえって赤ちゃんはビタミンや他の栄養素を吸収するために、なによりも脂肪を必要としているのだ。

また、意外にもケトン王ドム・ダゴスティーノなど、子供にケトン食を勧めることに反対する科学者もいるが、子供のケト適応は人の好みであって決して危険なものではなく、実際にてんかん療法で使用されていることは以前にも述べた。

現実的に、現代の糖質が溢れている世の中で、大人でさえご褒美になるスイーツや糖質を、子供から遠ざけることは一種の拷問であり、元気で健康な子供にとっては過酷で可哀想な生活習慣ともなろう。

また例えば、ケトン人として育った子が、ある日ふとストロベリーショートケーキを食べたとしたら・・・?

 

20世紀の初めまで、高脂肪食を主食としてきたイヌイットや一部のアメリカン・インディアンが、糖質が生活に入りだしてから肥満が急増し、生活習慣病が蔓延した経緯は、上の例えの答えに通じるかもしれないが、大事なことは、正しい食生活の情報であり、その上で各個人が食べるものを選ぶことではないだろうか。

そして、HPCSAがノークス博士を潰しLCHFに打撃を与えようと起こした裁判は、逆にこれまで常識としていた「食生活指針」は間違いであると、公の場で反撃のメスを入れられるものへと発展し、根底を覆すような知的パフォーマンスの大壇上となるのである。