クレブス輪廻

ミトコンのATP生産で、クレブス回路・クウェン酸回路・TCA回路との3つの回路名を聞くが、紛らわしいことにこれらはどれも同じ回路のことなのだ。

ちょうど、吾人の名前も本名とペンネームと、海外での呼び名(=画家名)の3つがあるように、その機能や性質の違いから3つに分かれているようだ。

まあ吾人の個人的な名前など持ち出せば余計紛らわしくなったかもしれないが、以下に呼称の意味するところを紹介する。

 

まず、「回路」の意味するところは、英語ではサイクル(Cycle)と呼ばれ、回転と言ったほうがわかりやすいだろう。

実際に、ミトコンの内部ではF1カーのエンジンと同じスピードで回転が展開し、栄養素を分解して様々な化合物をとっかえひっかえ生成しながら、ATPやNADH、FADH₂などのエネルギーを弾き出す。

さながらエネルギーの生成輪廻だ。

<TCA回路>

TCAとはTricarboxylic Acid=トリカルボン酸のことで、エネルギー生成輪廻(回路)の過程で、3つの(Tri-)二酸化炭素(Carbon dioxide)を基に、様々な酸(Acid)が生まれながらエネルギーを生み出すしくみから名付けられた。

この説明は、あくまで吾人の頭の中で消化し、分解し、生成した表現であって、専門的または学術的なものではないが、意味的には間違ってはいない(と思う)。

 

<クウェン酸回路>

これは輪廻のはじめに、解糖系のピルビン酸とオキサロ酢酸が合体してクウェン酸が生まれることから名付けられた。

 

<クレブス回路>

1937年にオックスフォード大学のハンス・アドルフ・クレブス博士が、上の2つの回路を発見・解明し、1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことから命名されたものだ。

 

吾人がこのミトコンドリアの項で、上の3つの言葉の選択肢から、あえて「クレブス回路」を使用してきたことには理由がある。

それは、一般に習うTCA回路とクウェン酸回路はブドウ糖を主とした代謝回路の説明であって、ケトン代謝回路ではないからだ。

これまで強調してきたように、ケトン体代謝ならばピルビン酸やオキサロ酢酸、カルニチンなどは不要な状態で、それら無しでその倍もエネルギーを生産し、二酸化炭素排出も減るとの天地雲泥の差がある!!

 

1940-50年代、クレブス博士をはじめ、この時代の科学者たちはβ酸化とケトン体酸化の仕組みを解明することに忙しかったようである。

一部ではケトン体は脂肪酸代謝から生まれた副産物、または脂肪酸代謝の終着点と見なされ、他方では結論に急がずに、ケトン体は脂肪酸代謝とは独立した別物と推定し、実験を続けた科学者たちがあったようだ。

クレブス博士は後者であり、1953年のノーベル賞受賞の講演では、1943年に数人の科学者によって、糖を基にするオキサロ酢酸が存在する状態で、ケトン基であるアセト酢酸が、クエン酸塩の形成を引き起こす一つの原因かもしれないとの報告を紹介した。

この意味するところはつまり、もしケトン体(アセト酢酸)が脂肪酸代謝の終着点ならば、糖が燃えつくされて後に起こる脂肪酸代謝の後でひょこり現れるべきであるはずが、糖(オキサロ酢酸)がまだ登場している中で、「こんにちは」と現れるのは最終駅の駅長さんではないとでも言えようか。

続いて講演には、1944年のアメリカの研究で、アセト酢酸の炭素原子が、クエン酸回路の酸に現れることを突きとめ、これらの酸は完全な脂肪酸酸化の中間体であること決定づけたことを紹介している。

これも吾人流で言うならば、ケトン体はβ酸化の最終駅の駅長さんではなく、中間の駅でせっせと切符を切っていたのが発見されたことで、最終駅長さんとは全くの別人であったことが判明したとも言えよう。

 

こうして時を経るに従い、クレブス博士を筆頭に科学者たちのケトン体解明が進展し、60年代に入る頃には、ケトン体は肝臓で生成されること、アセチルCoAは脂肪酸とケトン体の両方から生成されること、長鎖脂肪酸から複数のケトン体が生成されることは滅多にないことなどが明らかになった。

また、これまでオキサロ酢酸の減少がケトン体の増加を促すと推測されてきたものが、実際にはアセト酢酸が増えてもオキサロ酢酸の数値に変化が起きないことも突きとめ、ケトン体には「節約」機能があるのではと示唆している。

この節約機能は近代になって顕著になってきているが、例えば、糖代謝時で筋肉生合成に必要であるアミノ酸数値が、ケトン体代謝時には数値が落ち、それでいて充分な筋肉が作られる、いわゆるホメオスタシス機能である。

言い方を変えれば、糖代謝時には光熱費が高く、ケトン代謝時には光熱費が下がる機能であるが、このことは別の機会に取り上げよう。

 

また他にクレブス博士は、ケトン体の酸化(代謝)が呼吸燃料になることも取り上げ、1万カロリーを消費するほどの長い水泳では、炭水化物よりも脂肪が主な燃料となり、移動性の昆虫・バッタや蝶、渡り鳥も脂肪を燃料としていることに注目し、近代の運動パフォーマンスとケトン体の調査をしているフィニー博士とヴォレック博士に、その課題を投げかけた形跡も見られた。

ちなみにクレブス回路の解明は、鳩の筋肉の炭水化物代謝より為されたものだ。

これらクレブス博士の遺産を後世に受け継いだ代表的な人物に、現在ではケトン長老リチャード・ヴィーチ博士がいる。

50年代・60年代と、ミトコンレベルでのケトン体が解明されていく中で、アメリカのジョージ・ケイヒル博士が、断食(飢餓状態)の生理的反応を観察して、脳は自然の流れでケトン体を代謝することを発見したが、若き日のヴィーチ博士は、このケトンの金字塔とも言える瞬間にケイヒル博士の下で研究をしていたのだ。

その後、ヴィーチ博士はオックスフォードに渡り、クレブス博士の指示の下でケトン体の調査を行い、博士号を修得してアメリカに戻った後々、代謝の研究を続けながらケトンエステル(液)の開発を行い、去年2017年に、オックスフォード大学のキーラン・クラーク博士との共同研究で、HVMNとの最強のケトン液を発表した。

HVMNの資金援助には、アメリカ国防省のダーパが存在しているが、ヴィーチ長老やクラーク博士にとってみれば、兵士やアスリートのパフォーマンス向上の為よりも、医療への適用を要望しているようだ。

 

ここで明らかにしておきたいのは、輪廻は形を変えて繰り返すことだ。

その昔、クレブス博士とケイヒル博士が、ケトン体解明のためにイギリスーアメリカ間で連絡を取り合い、情報を交換していた場面があった。

その両博士の下で、ケトン体の歴史的解明の生き証人となったヴィーチ博士は、これまたアメリカーイギリス間で、2001年よりクラーク博士と共同研究をして、HVMNを開発した。

まるで、クレブス回路が曼荼羅であるかのように、師弟の劇が繰り広げられ、難病克服のためのケトン研究が受け継がれている。

しかも、ヴィーチ博士からケトン液を学んだドム博士は、昨今ケトン王と称されるほどで、ついには王様が誕生するまでに普及され発展したことが窺えられる。

ちなみにドム博士以外の科学者たちは、ケトン人ではない。

難病治療のためのケトンにはこだわりがあるが、健康維持・ダイエットとしてのケトンには、からっきし興味が無いようである。