栄養学の中世暗黒期

吾人にとってカロリーというものは未だに抽象的な部分が残っており、完璧に理解しているとは言い難い。

カロリーの供給以上に消費をする(カロリーズイン・カロリーズアウト)ことで、肥満になることは無く健康を維持でき、もうすでに肥満であるか体脂肪が多めであれば、カロリー制限によって痩せられるとの理屈で育ってきたので、その真逆に位置したカロリーなど当てにならないとの、糖質セイゲニストのカロリー神話は簡単に受け入れることができた。

しかし、留まることなくケトジェニック・ライフスタイルを追求するうちに、カロリーはまるっきりでたらめだと言うのではなく、やはりカロリー過剰は太り、カロリー制限で痩せることは確実であることを知った。

そしてカロリー理論は正しく存在し、でたらめな神話ではないとの結論に至った。

 

それでは、なぜ糖質制限をすれば急激に減量、または減脂肪がなされるのか?

吾人の頭にすぐに浮かぶ答えとして2つある。

a) 過剰な糖質が肥満の原因であることは、一部ではもうすでに常識となっているだろう。

この肥満の原因を取り除いたから痩せる。

b) 糖質制限は、知らないうちにカロリー摂取量が減る、カロリー制限ダイエットになるからだ。

以下、a)とb)を混ぜ合わせながら説明し、間違った視点の置き所から生まれた、栄養学の免罪符たる食生活指針に話題を移そう。

 

昨今、世界的現象になっているロカボダイエットのおかげで、パズルを組み合わせるように新たに明らかになってきたことは、三大栄養素の内のどれにカロリーの比重を置くかで、体重増減の違いが起こることと、カロリーよりも食物それ自体に体重体脂肪の増減が見られるようになったことであろう。

そして、肥満の原因はカロリー過多や食べ過ぎとの一般の見解から深く踏み込んで、ホルモンバランスの崩れにあることが公言されるようになった。

 

唯一の肥満ホルモンはインスリンで、このインスリンを誘発するのは第一に糖質=炭水化物であり、次に糖新生の素となる蛋白質で、脂肪はほとんどインスリンとの相性が無い。

そこで単純な説明として、カロリーの比重を炭水化物に置き、糖質を大量に摂取すれば、健康な体に必要以上のインスリンが分泌されて、ホルモンバランスが崩れることになる。

これが慢性的に続けば、インスリン抵抗性に亢進してしまう。

厄介なのは、炭水化物だけで3000kcalを摂取するのは、そう難しいことではなく、逆に脂肪だけの3000kcalは、すぐに満腹になって2000kcalに達することさえ無理な話なのではないだろうか。

脂肪は満腹ホルモン・レプチンを刺激するのだ。

 

一般のカロリー制限ダイエットを経験された方は、一様に同意できると思うのだが、確かに減量ができるダイエットであるが、心身共に過酷なものである。

これは禁煙以上に難しく長続きしないし、長く続けるものでもない。

早い話が、制限の度合いにもよるが、長く続ければ栄養不足に陥り、ホルモンバランス崩壊にも陥り、カロリー減少に慣れた体は、それを通常の状態と認識し反応しだすので、減った分からエネルギーの貯金を始める。

これが減量へのブレーキとなり、栄養不足から肌はガサガサ、意識は朦朧、頭に浮かぶことと言えばフード。

これより明らかなのは、カロリー制限での減量は間違いではないが、長期に及べば減量と言っても体重だけでなく、ホルモンと健康の量も減ってしまうと言っても過言ではないだろう。

が、ここでカロリー制限にも違いがあることに注目しておく必要がある。

同じカロリー制限でも、糖質カロリー制限なのか、三大栄養素全体のカロリー制限なのか、つまりケトジェニックなのか、糖代謝のままのカロリー制限なのかで、長い目で見た違いが生じる。

もちろんケトジェニック・ライフスタイルの方が割と簡単に継続でき、認識力や持久力の向上、栄養価の保持と健康面でも利点が多いことは日毎に証明されている。

 

デイビッド・パールマター医師は、30%のカロリー制限をすれば断食やケト適応のようなリセット効果が起こるので良いと奨励し、1970年から500kcal以上も摂取量が増え、この増えたカロリーはほとんどが糖質だと言っている。

また「コレステロール神話」の生みの親アンセル・キーズのインチキに真っ向から対立した科学者の一人で、イギリスのジョン・ユドキン(John Yudkin)博士はこの当時から心臓病や肥満の原因は糖質にあると着目し、1970年に11人の肥満の被験者に糖質食をまず与え、次に糖質制限食を与えて、双方とも腹いっぱいになるまで食べるとのうれしい条件の下、カロリーと脂肪、蛋白質の増減を調査した。

この結果が面白い。

腹いっぱい食べた糖質食では2330kcal で、満腹の制限食では1560kcalと770kcalの減少が見られ、蛋白質摂取量はあまり変化が無く、脂肪の摂取量が増えたかと思いきや、逆に制限食ではわずかに脂肪摂取量が減っていた。(「Tim Noakes Trial- The Food Pyramid part016」)

このことからノークス博士は、高脂肪食(LCHF)と言っても実際には糖質食時よりも少なめの脂肪とカロリー摂取になり、これより導き出されるのは、LCHF食では空腹感に苦しむことは稀であり、それに比べ食生活指針を基にした糖質比重食では常に腹が減ることは、糖質が空腹感を煽る源であるとのことだ。

また糖質よりも脂肪の方が断然栄養価が高く、脂肪こそがホルモンや細胞組織生成のために必須であることは、前回の離乳児の食事から見ておわかりのことと思う。

 

余談であるが、吾人がケトン食に踏み込んだ頃の体験で、それ以前に糖質主食の生活をしていたときには、バター大匙2杯を食べれば気持ち悪くなったものだが、糖質を断ってケトン食にも慣れだすにつれ、バターがこれほどおいしいものであり、大匙5杯など簡単に消費できるようになったほどの味覚の変化が起きた。

ノークス博士の弁明の中で、あるドイツ人の体験記録本を紹介し、砂漠に住むブッシュマンのパラダイスというものは、まず脂を腹いっぱい飲むことで、実際の生活でも数日間不食が続いた日には、まず脂から食べるという。

つまり、エネルギー供給の絶えた枯渇した体が欲するものは、栄養価の高い脂なのだ。

食の氾濫した文明に慣れてしまった我々には、理解しがたいことかもしれないが、もしも過酷な大自然の中で飢餓に合い、何週間ぶりにやっと獲物を仕留め、いざその食事を口にした時に「美味い!!」と感じられる部分は、脂の少ない肉ではなく、脂ぎった部分であることは想像しやすいのではないだろうか?

 

 

次に「カロリーズイン・カロリーズアウト」の理論だが、これも理屈的には間違いはないのだが、これには常に運動が関係していて、運動をして供給したカロリーよりも消費をした時、現実的に起こる現象として、腹が減って仕方がないことであり、この空腹感を満たすために、ついカロリー過剰の食事となってしまう

減量を必要とするアスリートは短期間の絞り込みに、結局は知らないうちに糖質制限をしたカロリー制限食になるのがほとんどであろう。

人によっては、糖質代謝(糖質適応)のままで我慢強くカロリー制限にしがみつくことができる凄い人もいるが、先に挙げた理由から、アスリートであればパフォーマンスが落ち、アスリートでなくとも通常の生活に影響を来たすものであろう。

つまりカロリーは理論的には間違いは無いのだが、糖質適応である限り実際にそこからの減量・維持となると難しいので、一般的に実践には不向きな無理な理屈になるのだ。

 

ところで、カロリーズイン・カロリーズアウトの理屈を強く奨励したのは誰か?

それはアスリートコーチや監督ではなく、科学者でもない、実に 砂糖産業と穀物産業であることは、歴史的に否定できない事実である。

カロリーと並んでよく聞くスローガンに「痩せるために動け」「運動は健康になる」とあるが、業者からすれば動けば腹が減るのでもっと食べる、糖質には中毒性もあるので、また腹が減って食べ、痩せるために健康になるために更に動き、腹が減る→更に食べる→動く…。

こうして低コストの食品が延々と売れ続ける。

この業者たちの強力な後押しで、カロリーを基にして食生活指針が制作され、1977年にアメリカで施行されてから、その後は世界的に、上のいずれかの業者がいる所どこでも、アメリカの食生活指針にそっくりなガイドラインが発表されている。

そして1977年の生活指針が、コレステロール神話をも基にしていることは、充分に彼らの陰謀を裏付けている。

つまり、脂肪を悪玉にして砂糖の需要を増やす手口が、今日までものの見事に成功してきたのだ。

コレステロール神話はアンセル・キーズの宝刀であるが、碌にエビデンスの無いこの仮説を、キーズが一人で世界を納得させたなど全く不可能な話であり、その裏には研究調査資金調達を簡単に左右できコントロールできる巨大な組織があったことは、もう見え見えであろう。

 

先に紹介したユドキン博士など、真っ当なエビデンスを掲げ真実を叫んだことによって、砂糖産業からの圧迫迫害を受けて、職を奪われアカデミックの表舞台から追い出されてしまった。

このことは氷山の一角であり、他の例を挙げれば、メタボリック・シンドロームの発見者でスタンフォード大学のジェラルド・リーヴェン博士は、1987年の時点でインスリン抵抗性から連動するようにして発症するシンドロームX(メタボリック・シンドローム)は、高糖質が原因であることを充分に認識していたが、公言すれば職を失うので、その原因を強調すること無しに包み隠していた。

またコレステロール神話のエビデンス獲得のために行われたミネソタ冠状動脈実験(Minnesota Coronary Experiment1968-73年)などは、神話を覆す結果が出たことによって即書庫入りをして、晴れて陽の目を見たのは2016年のことであったし、だいたいアンセル・キーズ自身が、自説を証明しようと行ったフレミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)にしても、飽和脂肪酸は心臓発作の原因ではないことを突きとめたにも関わらず、完全に無視をしてデタラメな仮説を押し通したのだ。

このように1950年代から半世紀余りもの間、コレステロール神話の下に真の科学的エビデンスは隠蔽され、学者たちは職を失いたくないがために異論・真実を唱えることができずに沈黙を守っていた、さながら魔女狩りの嵐が吹き荒れた栄養学の暗黒期(中世)であったと言えよう。

そしてこのような時流を作ったのは、偏に金儲けのために手段を選ばない砂糖・穀物産業であったのだ。

 

そこで1977年の食生活指針以降、我々は健康になったであろうか?

答えは、である。

誰もが見て明らかなように、年々肥満・2型糖尿病などの生活習慣病は右上がりの増加を見せるだけで、この40年間減少したことが1度も無いのだ。

食事バランスガイド、ヘルシーフードピラミッドなるものが公布され、総カロリーの半分以上を糖質が占め、次に蛋白質、脂肪との優先順位が重視され、世界中では確実に肥満が増えている。

必須脂肪酸・必須アミノ酸と言いつつも「必須」には比重が置かれず、「必須」で無いクソにしかならない糖質に重きを置き、「必須」ではないが必要なエネルギー源だと科学的でない主張を繰り返す。

その上、年を追うごとに目に見えて肥満が増え、奇病が生まれ、その原因は食にではなく、運動不足だとのヒポクラテス顔負けの理屈を吹聴する。

カロリー過多で運動不足だなどと、まことしやかに喧伝して、低カロリーまたはカロリーゼロの食品を提供し、運動をさせて腹を減らし、カロリーゼロのゴミをもっと摂取させる、倫理感ゼロの手口は未だ健在である。

だいたい世界トップクラスの耐久レースアスリートが、日に何時間ものトレーニングをしながら2型糖尿病に罹患し、LCHFに移行して合併症の危機から脱出できている現状は、現今の食生活指針こそが噓八百、神話であると証拠付けているのではないか。

 

近年アメリカとイギリスで、飽和脂肪酸に関するガイドラインに修正が見られたが、奨励している糖質摂取量は相変わらずで、かえって高糖質+以前よりも多めの脂肪摂取は、カロリーの倍増を促して、事態を余計に悪化させるのではと吾人は憂慮している。

また栄養学の暗黒期は、ルネサンスの暁へと近づいているのは肌で感じられるが、現在は情報が溢れている分、人の数ほどの理論や方法論も溢れ、新たに厄介なことは、一部の医師や学者が感情的・利己的に事を歪曲して、注目を集め金儲けをしようとしている別な暗闇が漂い出していることも憂いである。

最近、ケトン王ダゴスティーノが言っていたことに、マウス実験と人体実験を比べた時、厳密に信頼出来得る実験結果を出すのはマウス実験の方なのだそうだ。

なぜなら、人体実験ではプラシーボ効果が混じってしまうことが在り得るのに対し、マウスにはそれが無く、感情無しに人体に近い反応を示すと。(「Joe Rogan Experience #1176 – Dom D’Agostino & Layne Norton」by PowerfulJRE, Streamed live on Sep 28, 2018.YouTube)

プラシーボ効果を備えた人間は凄いものだが、この効果を良きにも悪しきにも働かすことは、人それぞれの選択肢であり責任でもある。

情報の選択もプラシーボ効果と同様であり、提供する側も受け取る側も感情に左右されることがあり一筋縄ではいかないものだ。

丁度ヒンズー神のブラフマー(創造神)とシヴァ(破壊神)は、他でもない我々人間のことであり、感情の豊富さは神々も人間も変わりは無い。

 

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