内容
【体幹と筋肉バランス】
10月7日月曜からの1週間、学校管理人ではなくジムインストラクターとして、生徒さんの安全指導を行った。
これはカーディオマシーンやウェイトの安全で正しい使い方をおさらいするもので、障害を避けるための注意点を強調した、それこそ吾人に持ってこいの授業であった。
なぜ吾人が適任者かと言えば、12歳からトレーニングを始めてこのかた、頭と首関節以外の全ての部分に負傷を患わってきた体験があるからだ。
まあ頭はこれ以上悪くなるものでは無い状態だろうし、幸い骨折やひび割れも体験せずに済んでいるほど骨も頑丈であるが、トレーニングからの慢性的な関節や筋肉の痛み(筋肉痛と凝り、凝りであれば頭痛・首の硬直化の体験は多い)、捻挫打撲などは全て経験済みである。
こうして痛い思いをして学んだことは、「体幹」と「筋肉のバランス」の大切さであった。
まず授業では、「Engage core;体幹をかみ合わせろ」との言葉を覚えてほしいことを強調し、有酸素運動や筋トレの際に、常に軽く腹筋に力をこめ、背筋を伸ばして胸を張る事によって、腰への負担が減ると同時に負傷も避けられることを、一摘まみ程度の解剖学を混ぜて説明した。
また、多くの生徒さんが体幹運動を行っているので、引き続いて行うことを奨励した。
「筋肉のバランス」に関しては、吾人は10代の頃に上背のトレーニングを怠った結果、未だに強い筋肉群によって体が前に引っ張られ、そのバランスの崩れから特定部位が凝りやすく、痛みを生じる現在進行形の体験が続いている。
このことから、まずコンパウンド種目;多関節運動を勧めた。
ショルダープレスやベントオーバーローなどのコンパウンド種目を基本に行えば、バランスの取れた筋肉の成長が為される。
その上で、バイセップカール(二頭筋)などのアイソレーション種目;単関節運動をした時には、必ずトライセップスキックバック(三頭筋)などの種目を取り入れ、拮抗筋を鍛えて筋肉成長のバランスを取るように指導した。
強い中核とバランスの取れた筋肉発達が、フィットネスのキーポイントである。
【エネルギーシステム】
パーソナル・トレーナーの勉強中に習ったものが、3つのエネルギーシステムであった。
その3つとは;
1.クレアチンリン酸システム
2.乳酸システム
3.有酸素システム
で、運動時間と強度によってエネルギーの種類が変わると理解した。
以下簡潔に紹介しよう。
1.クレアチンリン酸システム
・クレアチンリン酸(CP)→ADP+C(クレアチン)+P(リン酸塩)=ATP +C
・6-10秒の短時間・強度の運動 <例>1-6回のストレンス(筋力)トレーニング、100メートル走、ウェイトリフティングなど
・無酸素
2.乳酸システム
・ADP +P+ グリコーゲン=ATP+乳酸
・90秒の短時間・中~強度の運動 <例>筋肥大と筋持久トレーニング、50メートル水泳など
・嫌気性解糖
3.有酸素システム
・ADP +P+ 酸素+脂肪酸=ATP+H2O、CO2
・90秒以上の長時間・弱~中度の運動
・有酸素
・燃料として、25分-1時間ほどでグリコーゲンを使い果たし、その後は脂肪酸を使用し、2時間ほどでアミノ酸に切り替わる
このことから、筋トレはかなり強度な運動であり、トレーニングを20分ぐらいすればグリコーゲンから脂肪酸へと燃料がシフトすると聞いたことがあり、一般には45分もトレーニングをすれば充分である。
しかし、筋トレでも先に述べたアイソレーション種目かコンパウンド種目かでエネルギーシフトに違いが生じるし、上半身か下半身かでも違いが生じる。
つまり、鍛える筋肉の部分が大きいほど、より早くカロリーを消費しグリコーゲンを枯渇させる。
しかも、筋トレ後には回復中にカロリーを消費し、回復後に筋肉繊維が増えれば更に代謝が活発になりエネルギー消費量が増え、体脂肪を燃やしやすく脂肪太りになりにくい体になるのだ。
よって体脂肪減量のプログラムとして、ホールボディー・ワークアウト(全身運動)やサーキット・トレーニングが、グループ・トレーニングをまとめるのに簡単である理由と共に理論的であることから、どこのジムでも行われているのだ。
そして、実にHIITトレーニングは筋トレと同じ強度であり、同じエネルギーシステムのシフトを行うので、体脂肪削減には持ってこいの運動として着実に普及されている。
残念ながら、この筋トレの最も人気のある効能を学校の授業で紹介することはできなかった。
学校側の方針として、10代の女子は容姿や体重などに敏感であることから、「脂肪」や「減量」、「燃焼」などの言葉の使用は絶対に厳禁であり、「脂肪酸」や「脂肪代謝」さえ口止めされていることが理由である。
ところで、「凝り」の実体について10年ほど前には、乳酸と言われていた。
筋トレをした部位が熱くなるのは乳酸の発生で、これが凝りになると当たり前のように言われていたが、最近では乳酸は凝りの成分ではなく、疲労物質や老廃物がその成分であるとされているが、「ならばその疲労物質とは何ぞや?」と問うても、はっきりとした答えは未だ解明されていないようだ。
【IFプラトー】
ケトン人の筋トレはトレーニング開始時より脂肪酸を燃料としているので、目に見えて体脂肪が減るのであるが、吾人の場合は期待しているほど体脂肪が減らないでいる。
厳しく自己観察をしてみると、上の理論を笠に着て思っている以上に糖質を摂取しているようで、特にトレーニング前と翌日に適度な量ではなく、人の倍の糖質を詰め込んでいるように思える。
しかしながら、改めて一歩引いて自愛して観察すれば、週に何回か糖質を摂取しても別段メタボではないし、体脂肪が余分に増えたとも見えないし、かえって体脂肪率は変わっていないかほんの少し減っているかと見える状態で、筋肉量は確実に増えていることが確認できる。
以前から知っていたことなのだが、カロリー制限をすれば、体は以前よりも低いカロリー摂取に適応しだし、その低いカロリー値から充分な栄養を取り入れ、非常食用として体脂肪を貯蓄するようになる。
いわゆる増加も減少も見られない、プラトーと呼ばれる状態だ。
しかしながらこのプラトーは、なにも糖質主食者のカロリー制限だけに見られる現象ではなく、実は糖質制限やケトジェニックに移行して、以前よりもカロリー摂取値が減った人にも当てはまる現象でもあるのだ。
このプラトーを打開するには、簡単に言えばカロリー値をしばらく上げてから、またカロリーを落とすことである。
これが簡単なようで実に難しく、長らく試行錯誤を繰り返してきたのだが、授業を受け持っていた週になんとなく問題を発見したように思う。
それは、2・3日ごとの糖質摂取も含めて、IF=間欠断食のし過ぎなのではないかとのことであった。
吾人はIFをほとんど毎日行っている。
もちろんカロリーアップとして、糖質を含めて食べる量を増やす日を設けているが、基本的にはIF条件下のカロリー過剰とカロリー制限だ。
丁度前回のブログの資料調査中に、トーマス・デラウアーの動画で「毎日の断食は理想的ではない」との言葉に引っ掛かっていた。
理由は、慢性的な断食は、結局カロリー制限と同じ効果に導かれる。
つまり23%代謝率が減ってしまうことだ。
https://www.youtube.com/watch?v=IeYkMVNysTM (動画5分30秒頃)
この動画は、TREに関して呆気に取られるほど間違った解釈がされているが、IFに関しては正確な情報である。
内実としてデラウアー氏は、IFとケトジェニックを商売の表看板にしているので、誰でも簡単にできるTREを誠実に推し進めたら、食い扶持が減ってしまうのは見え見えである。
こうして導かれた結論は、8時間のTREとIFの組み合わせで、TREの日は午前11時に食事をし、夜7時までに食事を済ますことで、朝のレモン水・コーヒー・緑茶は時間枠から外し、適度な(丼ぶり)糖質有りで、間食も入れてとにかく最低でも2500kcalは摂取するもの。
その次の日もTREで時間帯は同じだが、この日は糖質無しでカロリーを前日と同じ程度に保つように努力をする。
そして、3日目と4日目にIFで午後1時と7時に魚や肉、卵の食事。
具体例として;
1週目 | 2週目 | |
月曜日 | TRE糖質 | IF |
火曜日 | TRE | IF |
水曜日 | IF | TRE糖質 |
木曜日 | IF | TRE |
金曜日 | TRE糖質 | IF |
土曜日 | TRE | OMAD糖質可 |
日曜日 | IF/OMAD | IF |
と2週間サイクルで、これをステントを取り外すまでグルグルと繰り返すことにした。
この食事プランと共に、もちろんトレーニングも組み込まれているが、トレーニングにもこれまで行ってきたものにちょっとした変化を加えた。
【トレーニング頻度】
吾人の左肩前部には、2本のストレッチマークがある。
そして腰下・両足の付け根には外側・内側とかなりの数のストレッチマークが何本も走っている。
ストレッチマークは女性が出産後に残すことで有名であるが、吾人の場合は成長期に筋トレを始め、成長の勢いに拍車をかけて筋肉量が増えたことにあると思っている。
トレーニング内容が最高潮に達した高校3年の頃は、毎日休みなしの訓練で、通学には雨にも負けず風にも負けずに、片道15キロほどの道のりをロードレース用自転車で35-40分かけて走り、毎日ヒンズースクワット1000回、腕立て(拳立て、指立て)500回、腹筋300回、突き・蹴り各300本ずつ、仮想組手20-30分を課して、毎2日には筋トレと全く狂った思春期であった。
このような過激な訓練をこなしていたので、あの頃はハチ切れんばかりの筋肉を所有していた、その名残がストレッチマークとして残っていると信じている。
さてポイントとして、あの頃は過剰で完璧なオーバートレイニングの日々であったにも関わらず、また慢性的な右拳と左肘、右股関節の痛みを抱えながらも筋肥大を為していた。
もちろん成長ホルモン分泌の多いことも影響していたであろうが、あの頃に毎日の自重トレーニングをして2日ごとに筋トレをしていた時と、現在教科書に準じた筋トレをしているのを比べると、一目瞭然とストレッチマークが答えを示している。
まあ30年前の体力や筋肉量に戻るというのは無理な話しかもしれないが、ある程度近づくことができるとの自信がある。
今回授業を受け持っていた時、休憩時間が毎日不規則なことから、食事も一定の時間帯にすることはできず、暇を見つけてケトン食を摂ると同時に、暇を見つけて細かに筋トレもしていた。
例えば授業開始まで20分残されていればベンチプレスだけ行い、次の授業の生徒の着替え待ち中に肩、授業後に上背と、10代の頃のように「暇を見つけてスクワット」というような事をしていて感じたことは、常に体が引き締まって安定感と強さ、確信に満たされていたことだ。
筋肥大の最大効果を引き出すのは、週の総負荷量とセット数などの総ボリュウームであるが、この高負荷+高ボリュームを分散して行っても同じ筋肥大効果がある。
体操選手や競輪選手、アイススケートスプリンターなどを観れば、その筋肉量に驚かされるもので、瞬発力のタイプ2筋肉繊維が発達していると同時に、これらの選手は毎日競技種目トレーニングをしているはずだ。
このことから負荷量は関係なく、瞬発性を基にしたトレーニング・ボリュームの多さ、またはクリアチンリン酸システムを多用する運動の多さが、あの筋肉の太さを作っていることに議論の余地は無いであろう。
その理屈と体験から、自重トレーニングを頻繁に行い、筋トレは各部位ごとに暇を見つけ、疲労度を考慮しながら週に何回か細かに行えば、筋肥大と体力アップの近道ではないかと気付いた。
いわゆる間欠的断食ならぬ間欠的トレーニングが筋線維を刺激して、強さを増すというものだ。
【身体活動ガイドライン】
日本では、厚労省から「健康づくりのための身体活動基準2013」とのガイドラインが公布されている。
これは食生活ガイドラインのようなもので、日本だけでなく他の国でも似たような内容が公布されている。
WHOによれば、全世界での死亡危険因子は高血圧、喫煙に次いで高血糖、身体活動不足であるとして、健康維持・促進のために身体活動に最低基準を設けて奨励している。
「身体活動」とは、生活活動と運動をひっくるめたもので、生活活動は買い物や料理、洗濯などの生活上の活動で、運動はスポーツ、有酸素運動や筋トレのことを指している。
要は「動け」と言うことで、技術の発達によって便利になった生活の裏には、想像以上に動かない人が多いらしく、これが危険因子の4位に座を留めているが、身体活動を増やすことによってある程度の高血圧や高血糖の改善が見られるであろうことは想像に難くなく、行政機構が敢えてガイドラインを設けなければならないとは、なんとも哀しい現状であると思う。
しかしながら、以前より何度も主張している通り、健康への最大の鍵は食事にあり、食事が基本であると信じている。
ここでは、5-17歳の推奨レベルと有酸素運動は避け、筋トレになるたけ焦点を当てて紹介していく。
WHOの推奨内容では、18-64歳と65歳以上に、週150分の中強度のカーディオか75分の高強度のカーディオ、週2回以上の筋トレ(コンパウンド種目)を勧めている。 http://www.nibiohn.go.jp/files/kenzo20120306.pdf
この筋トレの効能として、5-17歳には;
「骨に荷重のかかる身体活動は骨のミネラル含有量や骨密度を高める。週 3 日以上の至適な負荷活動は、骨と同時に筋力にも好ましい影響を及ぼす。この年齢群では、負荷活動というのは、おいかけっこ、ジャンプなど、遊びやゲームの一部として行われるのが好ましい」
18-64歳には;
「筋力トレーニングと体重維持管理に関する科学的根拠に一貫性がみられないのは、トレーニングに伴う除脂肪量の増加や、トレーニング中の活動部位の少ないことなどの理由からである。身体活動と体重維持管理には相当な個人差があるので、体重維持管理のために週あたり 150 分以上の中強度活動が必要となる人もいるだろう」
と、悠図の利かない科学的見解を述べているが、「トレーニングに伴う除脂肪量の増加」とは、裏を返せば骨格筋の増加のことであり、筋肉は脂肪よりも重たいので体重増加が起こるであろうが、同じ体重80キロでも脂肪太りと筋肉の重みでは、健康の度合いにはっきりとした違いが素人目でも明らかである。
長らく吾人が信じていることで、一般の人が毎日体重計に乗って数値を測るのは「減量」であるが、美容健康の面からすれば正確なバロメーターではなく、毎日鏡に映る自身の体の変化を観測することは「除脂肪」であり、これこそが美容健康の直接の反映であることだ。
つまり、体の重みを気にするのではなく、ある程度目に見える体脂肪の量こそ注目すべき対象である。
また、「活動部位の少ない」との指摘は、アイソレーション種目のことであろうと察しがつくし、先に述べたようにコンパウンド種目なら、高強度の運動に値するのは経験者なら頷かれ同意されるものと思う。
そして、上の文に続いて筋トレの効能としては;
「体重負荷系の持久トレーニングやレジスタンストレーニングは、骨量 や骨密度の増加を促進させるのに効果的である」
次に65歳以上への筋トレ効果として;
「週 3 回のバランストレー ニングや中強度の筋力トレーニングといった身体活動が、転倒防止のために効果があるとほとんどのエビデンスが示している」
ともあれ、週2回以上の筋トレを勧めているのは、なんとも反論の余地が無くうれしいかぎりである。
次に日本のガイドラインでの筋トレ・メリットを紹介すると;
「肥満の有無を問わず、骨格筋量が減少することは、耐糖能異常や糖尿病 に進展するリスクを高める。したがって、非肥満者についても、骨格筋を強化し筋量を増加させる筋力トレーニングによって、このリスクを低減できる可能性がある」
とのことで、日本の場合は「週2回以上の筋トレ」との綱目は見られず、「ただとにかく動け」との押しが強く感じられると共に、親切さが溢れているように思えた。
また有酸素運動と筋トレを行うことを勧めていることに文句の付けようがないが、人類中世史上最強の戦闘軍団であったサムライの子孫たちがそんなにも貧弱化したのかと、キツネに包まれた感が強く信じがたい。
一応「健康づくりのための身体活動基準2013」に目を通されることをお勧めするが、ここでガイドラインの例を紹介させていただくと;
<18~64 歳の身体活動(生活活動・運動)の基準> 強度が 3 メッツ以上の身体活動を 23 メッツ・時/週 20行う。具体的には、歩行又 はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日 60 分行う。
<65 歳以上の身体活動(生活活動・運動)の基準> 強度を問わず、身体活動を 10 メッツ・時/週行う。具体的には、横になったままや 座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日 40 分行う。
・皿洗いをする(1.8 メッツ) ・洗濯をする(2.0 メッツ) ・立って食事の支度をする(2.0 メッツ) ・こどもと軽く遊ぶ(2.2 メッツ) ・時々立ち止まりながら買い物や散歩をする(2.0~3.0 メッツ) ・ストレッチングをする(2.3 メッツ) ・ガーデニングや水やりをする(2.3 メッツ) ・動物の世話をする(2.3 メッツ) ・座ってラジオ体操をする(2.8 メッツ) ・ゆっくりと平地を歩く(2.8 メッツ)
・普通歩行(3.0 メッツ) ・犬の散歩をする(3.0 メッツ) ・そうじをする(3.3 メッツ) ・自転車に乗る(3.5~6.8 メッツ) ・速歩きをする(4.3~5.0 メッツ)・こどもと活発に遊ぶ(5.8 メッツ) ・農作業をする(7.8 メッツ) ・階段を速く上る(8.8 メッツ)
・ボウリング、社交ダンス(3.0 メッツ) ・自体重を使った軽い筋力トレーニング(3.5 メッツ) ・ゴルフ(3.5~4.3 メッツ) ・ラジオ体操第一(4.0 メッツ) ・卓球(4.0 メッツ) ・ウォーキング(4.3 メッツ) ・野球(5.0 メッツ) ・ゆっくりとした平泳ぎ(5.3 メッツ)・バドミントン(5.5 メッツ) ・バーベルやマシーンを使った強い筋力トレーニング(6.0 メッツ) ・ゆっくりとしたジョギング(6.0 メッツ) ・ハイキング(6.5 メッツ) ・サッカー、スキー、スケート(7.0 メッツ) ・テニスのシングルス(7.3 メッツ)
「健康づくりのための身体活動基準2013」厚生労働省より引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html
メッツと言う横文字を使用し、活動例を詳細に紹介しているところが、なんとも親切なお国柄だと感心した。
WHOは国民性を考慮して、各国独自のガイドライン作成を勧めているので、面白いほどに各国の「身体活動ガイドライン」には、その国の人柄が反映されていると思う。
例えば、アイルランドのガイドラインを例に挙げれば、18-64歳に対して少なくとも週5日、1日30分か週150分の中強度の活動を推奨し、65歳以上にも同じ運動量で、65歳以上には有酸素運動と筋力、バランスに集中するように注意事項が添えられている。
極めてシンプルである。
【筋トレの効能】
どこの国のガイドラインも「とにかく動け」との趣向なので、「カーディオだろうが筋トレだろうが好きな運動をしてくれ」と受け取れるような内容だと思う。
吾人もカーディオと筋トレを実践し、人にも勧めているので異論はないのだが、一般的にカーディオ偏重の傾向が長年強いので、敢えて筋トレを主張している次第である。
「カーディオが良いか?それとも筋トレか?」との右か左か的な偏狭な評価を求めるのではなく、カーディオと筋トレが双翼となって健康へのメリットを生み出すと捉えた方が的を獲ている。
世界共通項として、筋トレは「骨の健康」と「代謝の改善」をもたらすことであるが、もうちょっと良い面があるので、ここでは、まずその他のメリットを一つのシステマティックレビュー論文から紹介させて頂く。
この論文は今年1月に出版されたもので「高齢者の健康関連の生活の質に対するレジスタンストレーニングの効果:システマティックレビューとメタアナリシス」と題するもの。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6377696/
年齢50歳以上を被験対象に、8つのスコア(身体機能、身体的痛み、身体的役割機能、全般的な健康、精神的健康、感情的役割機能、社会的機能、および活力)からなる「健康関連の生活の質」を調べたもので、結論としては
「RT(レジスタンス・トレーニング)により、すべてのHRQOL(健康関連の生活の質)測定値が大幅に増加しました」
そして、過去の諸研究からメリットを摘まみ上げると;
- 筋肉量と筋肉の増加
- 骨ミネラル密度
- リポタンパク質プロファイル
- 血糖コントロール
- 身体形成
- 虚弱の症状
- メタボリックシンドロームの危険因子
- 心血管疾患マーカー
- 観察と実験双方における全死因死亡リスク
- 首尾一貫性、知覚ストレス、うつ病、不安、疲労などの心理社会的健康の改善
これらを全て改善する機能がある。
最後にこの稿の執筆中にベン・グリーンフィールドがポッドキャストで筋トレの効能を述べていたので、上記のものと重なる部分があるかもしれないが、ここに紹介しておこう。
このポッドキャストでは、先に紹介したトーマス・デラウアーの講義も後半に含まれていて、MCTオイル、フォームローラー、サウナ、断食など体脂肪減量のヒントを紹介しているので、合わせて聴いて頂くことを勧めたい。https://bengreenfieldfitness.com/podcast/fitness-podcasts/sarcopenia/
・サルコペニア;我々は加齢と共に筋肉が小さくなり弱くなるが、この主な原因は筋肉のミトコンドリアにあると言う。
時間と共にミトコンドリアの密度と機能が低下し、劣化することで筋肉が減るようだが、このミトコンドリアの衰退を食い止めるには筋トレが一番で、筋トレによってミトコンドリア・レベルが40歳若返ることができるとのこと。
・脂肪燃焼タイプ2筋肉繊維(速筋)の発達が、加齢と共に起きる染色体末端のテロメアの劣化を防ぐ。
2400組の双子を調査、片方は運動無しでもう片方は週に3時間以上激しい運動をさせたところ、運動をした方はテロメアは10歳若く長かったとのこと。
マウス実験ではあるが、筋トレによって発達するタイプ2筋肉繊維は、タイプ1筋肉繊維よりも肥満とインスリン抵抗性がはるかに少なくなる傾向(改善傾向)が見られる。
・しかも、慢性的な有酸素運動をするよりも、ウェイトリフティングをする方がテロメアの長さが長く長生きに導くことだ。
慢性的なカーディオは第一に遅筋のタイプ1筋肉繊維が発達する。
つまり、タイプ2筋肉繊維が置き去りにされ、その分ミトコンの人口密度が少なくなってしまう。
第二に、つい知れずに慢性的疲労を蓄積し、その疲労が気づかないうちに健康長寿に影響を及ぼすとのことだ。
また、同じタイプ2筋肉繊維でも2種類があり、先のエネルギーシステムの違いからも説明できるように、筋力トレーニングはタイプ2b(または2x)で筋肥大トレーニングはタイプ2aに分類され、ウェイトリフティングのタイプ2bがボディービルダーのタイプ2aよりも優れるとのことである。
パワーリフティングや筋力トレーニングは長寿の鍵だ。
・オックスフォード大学の8万人を対象とした研究では、ラケットを使う運動(ここでは主にテニス)は早死のリスクを47%削減し、次に水泳で28%減、次に自転車の15%減とのことであるが、この調査では筋トレには深入りしなかったようだが、筋トレの利点として、
「筋力、筋肉量、および身体機能に関する筋力トレーニングの利点を示し、糖尿病、骨粗鬆症、腰痛、および肥満の減少」
を挙げているようだ。
・別の研究では、先に紹介したガイドラインを基に、3万人を対象に調査をしたところ、週に2回以上筋トレをしたグループは46%の死亡率低下。
心肺機能問題による死亡率は41%減、ガンによる死亡率は19%減とのことだ。
・最後に、以前にも紹介した熱ショックタンパク質についての効能として;
1.「長寿」要因の急激な増加
2.筋力トレーニング無しでも筋肉量の維持
3.成長ホルモンの増加
4.骨格筋への血流の増加
5.新たな赤血球産生に伴う血糖値低下
また、後に続くトーマスの講義では、更に熱ショックタンパク質の利点を追加して;
6.ストレス調整と解消
7.免疫力の向上と共に、強く、より弾力性のある細胞を作成
8.細胞の回復力を促す、強力なオートファジー効果
などを、紹介してくれている。
歯を食いしばる筋トレに対して、カーディオはリラックスできるし取っ付きやすいことから、有酸素運動人口は世界的に多いものであるが、毎日のカーディオは即健康ではないことは、様々なエビデンスがあるにも関わらず、認識されていない残念な現状である。
また筋トレと聞けば、漫画のようなムキムキしたものを連想されやすいが、実に筋トレの真髄は筋肉の大きさではなく、外見ではなく内に秘められた筋線維の多さと強さにあることも、一般に認識の薄いものである。
まとめとして、吾人が日頃実践しアスリートではない一般の人に勧めるのは;
・最長週1時間半∼2時間のカーディオ(テニス・水泳・自転車等を含む)。
・週2∼3セッションの筋トレ(同じ筋肉群を週に2∼3回鍛えること)。
これらが疲労と回復を含めたバランスを保ちやすい規範であると思う。
・間欠的運動と、週に数回、カーディオと筋トレを組み合わせた1時間ほどの運動。
・IFを毎日は行わない。
Fasting(断食)と Feeding(摂食)のバランス、必須栄養素を基準にしたカロリーバランスを保つ。
・フォームローラーを、できれば毎日行う
・サウナ、または熱すぎずぬるすぎない入浴
充分に発汗を促し熱ショックタンパク質を産生させる習慣をできる限り習慣づけることである。