現在の日本では、日を追うごとに「糖質制限」の旋風が巻き上がっているような印象を受けるが、吾人は日本の外から見ていて少し憂えを抑えきれない。
「糖質制限」との言葉に、なにか宗教儀式的・お題目的な力が宿って、「糖質セイゲニスト」たちの「糖質制限」崇拝ぶりから狂気を感じられるのだ。
「糖質制限」との表現を用いずに「ロカボ」や「ローカーブ」、「低炭水化物」「ケトジェニック・ダイエット」を、うっかり糖質セイゲニストに漏らそうものなら、即座に「糖質制限」の名に改められるほどの、熱狂さ・偏狭さを窺えられる。
「糖質制限」との用語は、近年日本だけで流布され使用されているだけで、世界の栄養学や医学の世界、そして一般人にとっては「低炭水化物」がいまだ共通言語であり、将来もなんら変更されることなしに使用されるものであると思うのだ。
「俺あ、日本に住んで海外など眼中にない。だから、「糖質制限」こそが最強であり究極のダイエット名であり、「糖質制限」こそが使用されるべき言霊である。「ロカボ」「ケトジェニック」は「糖質制限」に含まれるだけで、ほんの一部である」との、狂信者も中には存在されるかもしれない。
「現代においてダイエットが一種の信仰だとしたら、指導者は教祖、ダイエット法は教義、「この人のいうことだったら間違いない!」と盲信する熱狂的な信者がつながって集団が形成されることもある。そうなると一種のカルトである。」(『体にいい食べ物はなぜコロコロと変わるのか』畑中三応子著、ベスト新書、2014年より引用)とあるように、ダイエットに対する宗教的な態度は日本特有なものである。
江部康二先生や夏井睦先生方の書籍ではケトン体を説明してはいるが、どうも「糖質制限」に重きを置きすぎているようで、肝心なケトン体質への移行に関しては、具体的ではないように思えた。
また最近の江部先生の書籍を覗いても、「普通の人は糖質制限食で十分です」と、なんとも糖質制限のその向こうには行きたがっていない雰囲気なのだ。(『糖質制限革命』江部康二著、東洋経済新聞社、2017年より引用)
これでは、どうもアトキンス博士の日本版との印象が強くなるだけで、日本の糖質制限ブームは、今世紀初頭まで続いていたアメリカのアトキンスダイエット・ブームの後追いでしかないように思えてしまうのだ。
アトキンス博士はその著書でケトン体について触れてはいるが、そのダイエット名にケトンを使用するまでもなく、ちょうど日本の糖質制限ダイエットのように、アトキンスダイエットと命名し、1989年から、独自のサプリを生産販売して年間数百万ドルもの収入を得ていた。
「アトキンスの患者たちは、動物性食品 ―肉、チーズ、卵― を主に食べた(著者訳)」(『The Big Fat Surprise』By Nina Teicholz. Scribe Publications.2014より引用)とは日本で話題になっているMEC食であり、すでに40年以上も前にアメリカで旋風を巻き起こしていたのだ。
2000年にCNNで「誰が億万長者のダイエットドクターになりたい?」と囃し立てられたほど博士は孤軍奮闘して巨額の財を築いたが、その生涯で同僚の医師や栄養士からは認められることはなく、四面楚歌のごとく周囲は敵だらけであった。
2003年に不慮の事故によって博士はこの世を去ってしまうが、この時に、心臓発作で死んだだの、肥満であったなどと悪意のこもった噂が飛び交い、果ては、あるまじきことに博士個人の健康情報が遺族の許可なしに公開されるなど、卑劣極まりない狂気の沙汰であった。
これは現今に見られる、トランプ大統領対マスコミのような騒動劇であったろうと想像に難くない。
しかしながら嫉妬の狂風が功を奏して、アトキンスダイエット熱は下火となり、博士の死後2年にしてサプリ会社は自己破産をするほどの冷え込みを見せ、現在ではアトキンスダイエットとの名は化石化してローカーボダイエットとの名称が取って代わり、ケトン人にとってはアトキンスダイエット=高蛋白・ローカーボダイエットと位置づけされているようである。
このことから日本の糖質制限ダイエットには、アトキンスダイエットが辿った道を、宿命づけられているような錯覚に陥ってしまうのだ。
しかも糖質制限ブームに便乗して、低糖質食品や糖質制限食材が日毎に増えているようだが、実際にその栄養素だけではなく原材料にも目を通してみれば、「??!!」と首を傾げてしまう成分が含まれていることを発見できるものだ。
前回でも触れたように、小麦成分やトランス脂肪酸、植物油が含まれていたり、甘味料でデキストリンと記載されている製品を見たことがある。
デキストリンはマルトデキストリンのことだろう、これは砂糖以上のグリセミック・インデックスがあり、健康食材と思われる製品にもしばしば使用されているものだ。
これは砂糖の2倍の速さで血糖となる最悪の甘味料だ。
また、スクラロースはスプレンダーという甘味料の有名商品の素材であるが、西洋のケトン人では化学物質の塊であるスクラロースは避けるのが常識で、嫌厭されている代物である。
しかし、糖質制限教祖の江部康二先生によれば、厚生労働省の規制量以下なら大丈夫とハンコを押されているが、この時点で国の判定に頼るのはどうかと思う。
天然ではない化合物の甘味料は避けるに越したことはないとは、西側の常識であり吾人も同感である。
東西安心して摂取できる甘味料は、ステビア、羅漢果(ラカントS)、エリスリトール、イヌリンぐらいであろうか。
あと糖質制限ご印籠に便乗した悪徳商品に、原材料で糖質量は7グラムとまあまあ低めだなと感心するも、その横に炭水化物量14グラム??
「糖質は炭水化物のことじゃないんかえ?」と問いただすよりも、思わず吹き出してしまいそうな紛らわしいものも見つけた。
これは「糖質」との新しい言葉が独り歩きをはじめ、「炭水化物」が置き去りにされ忘れ去られるのを幸いにと、低糖質ではあるが炭水化物量は今まで通りな商品が、高目な値段で手軽に消費者に届くようになってきていると推察してしまう。
「糖質カット」「糖質制限」「糖質ゼロ」との見出しに安心して、原材料をチェックもせずにありがたく頂く心理、または、栄養素を聞いたことはあるがはっきりとは理解していない怠慢無知に付け込み、巧みに悪用し生産販売している商品はかなりあるだろう。
ご印籠の裏には、ケトン体質から遠ざけるような毒素が、かなり隠されているものだ。
人様の健康などは意に介さず、常に末永く儲けようとブームを利用し、毒をあちらこちらに少しだけ注入しておいて、ブームの熱が冷めだした頃に、「やっぱり糖質制限もダメだった。一時は痩せたけどまた体重が増えだし、健康になったのも一時的なことだった」との声を待つか、創るかとの陰謀・からくりがあるように臭えるのだ。
日本一国だけで、伝家の宝刀のように「糖質制限」を振りかざしていても、いざ日本の外に出れば、「トウシツセイゲン?ローカーブだろ」と訂正されるのがオチであり、ローカーブでさえ今やケトン無しには存在できないのが世界の現状であろう。
「トウシツセイゲン」は今や日本では巨大になってはいるが、「井の中の蛙大海を知らず」で世界では通用しないものであると断言しておく。
誤解のないように言っておくが、吾人はロカボ反対論者ではない。
低炭水化物の効果は絶大であり、これ無くしてケトン人となるのは不可能であるし、糖質セイゲニストたちの啓蒙的情報は、実にケトン人たちの情報であるのだ。
また江部康二先生の功績はアトキンス博士と同様、たくさんの人の減量を成功させ、健康に導いた偉業は歴史に残るものであると信じているし、本人の願望通り「糖質制限」との言葉は、日本のダイエット史に残るものであろう。
ただ「糖質制限」との日本だけの造語に浮かれる現象に衆愚さを感じ、「糖質制限」=ケトン体とのクソとミソを一緒にするような単細胞的な傾向が紛らわしく思え、ひねくれ者、屁理屈者と思われようとも、あえてここで、糖質制限=糖代謝とケトジェニック・ダイエット=脂肪代謝との間に一線を画しておきたいのだ。
【参考資料】
- 『体にいい食べ物はなぜコロコロと変わるのか』畑中三応子著、ベスト新書、2014年
- 『糖質制限革命』江部康二著、東洋経済新聞社、2017年
- 『人類最強の「糖質制限」論』江部康二著、SBクリエイティブ株式会社、2016年
- 『The Big Fat Surprise』By Nina Teicholz. Scribe Publications.2014
- 「Understanding Alternative Sweeteners」by Dr. Berg.